一本の映画を観ました。昭和31年の大阪を舞台に、戦後10年、世間が朝鮮戦争特需に沸く中で、戦争を引きずり、高度経済成長からも取り残された貧しい人々の日常と痛みを丹念に描いています。
昭和30年代後半に大阪市此花区に生まれ、当地で4歳まで、この作品のような川沿いの地で育った筆者には、自分の目に映っていた大人たちや世界、自分自身の消えてしまっていた感覚が、この作品を観た途端に、何かフワッと雨に当てられたアスファルトが匂いたったかのように鮮明に呼び起こされる、そんな感覚を受けました。
あの時代。戦争と貧困というあまりにも重いお話を、あくまで子供目線で描かれているから余計に苦しいけれど、超えられないほどの格差があっても子供は純粋に遊ぶし、それを優しく見守る親がいて、貧困も差別もあってじんわりと絶望が広がっているが、それなのにあたたかい、そんな時代だったのかもしれません。
製作から40年が経ってコロナ禍での不況による貧困が問題になっていて、今この作品に触れる事は遠い過去の事や自分たちとは関係ないものとして観る事とは違い、むしろこの状況下でこそ意味を持つ作品であるとこの映画を観て、つくづくと思わされました。
作者:A
先生